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とっても印象に残っていたのに、振り返ると「あれ、こんなこともあったっけな」と、忘却のかなたに追いやられてしまいそうになっていたことを、新しい年が来る前に書きとめておこうと思います。
とてつもなく長文になってしまいました。 ことの始まりは、2年前にまでさかのぼります。 それは息子が生まれて間もないお盆のことだったのですが、実家の仏壇のお部屋で寝ていると、すでに亡くなっていた祖母の声が聞こえてきました。 「今あるお金はすべて、勉強のために使い果たしなさい」 夢だったのかそれとも現実だったのかどうか、よく分かりません。 ただ、決して大きい声ではないけれど身体にその振動が伝わってくるような力のある声で、枕元の私をゆっくりと諭すように何度も何度も繰り返し言われたので今でもはっきりと覚えています。 “今あるお金”とは、きっと生前祖母が「勉強に使いなさい」と私にくれた、まとまったお金のことなのだと思いました。 それから2週間後、私は放送大学に入学していました。 数年間はしばらく、ゆっくり子育てをしようと思っていた矢先のことでした。 その後は自分でもびっくりするほど、勉強にのめりこんでいきました。 新しい知識を蓄えていくにつれて目の前にどんどん開けていく新しい世界に没頭していきました。 なぜか自分の勉強をリードしたり後押ししてくれるような方との出会いが重なり、環境もどんどん準備されていくのです。 しかし、勉強をするには子どもを預けなければいけません。 幸い、息子は良く食べよく眠り、託児に預けてもあまり心配のかからない子どもでしたが、お金が要ります。 また、研修や勉強会なども、それなりにしっかりとしたお金が必要です。 お金のことで迷うたび、祖母のあの言葉を思い出しました。 何しろ「使いなさい」ではなく「使い果たしなさい」と言ってくれていたので、今あるお金をすべて勉強と勉強するための環境づくりのために使い果たすことに決めました。 そして、放送大学の卒業を1年後に迎えた今年の春。 いろいろ考えた末、大学院に進学することを決め、受験勉強を始めました。 大学院を受験する際は院で行なう研究計画を提出しなければならないのですが、ちょうど研究計画の作成を手がけ始めた時、自分の研究テーマの具体性へとつながるお仕事をいただいたり、研究手法とリンクする貴重な情報をいただいたりと、天の計らいのように思えた出来事が重なりました。 しかし、トントン拍子とも言えるような院試の準備が整っていく勢いとは逆行するように、私の心の中にはある種の“重さ”のような抵抗勢力が働いているのを感じていました。 いまひとつ、気持ちが乗り切らないのです。 もっと正確に言うと、全力投球しようとすると、ブレーキがかかるのです。 その理由は、後で気づくことになります。 一方、院試を翌月に控えた7月、ある講演会でとても不思議な方とお会いする機会がありました。 人を見ていると、それぞれに個性的な光を発しているように感じられることがありますが、その方はご自身そのものが光であるかのように見えてしまうようなほど、精妙なバイブレーションの持ち主でした。 偶然ゆっくりとお話をさせていただいた時、祖母の話をしたのですが、その方は微笑みながらゆっくりと私の話を聞いてくださいました。 私にとって、生前からとてもつながりの深かった祖母。 その方とお話をさせていただいてからというもの、祖母の存在をますます実感として感じるようになりました。 そして8月。 院試を間近に控え、どこかでかかるブレーキを感じながらも、勉強に没頭していきました。 私の中の何がブレーキをかけているかについては、うすうす分かってきました。 それは、試験を受けることによって自分の実力が形となってあらわになってしまうことへの恐れでした。 思えばその恐れは、不登校をきっかけに高校を中退してからというもの、ずっと持ち続けていたものだったのかもしれません。 いわば“落ちぶれ”た経験を持つ私は、横道にそれることなくちゃんとした社会人になった人たちに対して、引け目を感じていたのだと思います。 そして、そんな人たちを目の前にするたびに、私は自分に「私だってがんばれば、あの人たちと同じようにできたはず」と、自分を慰めてきました。 しかし、実際に全力を出していいシチュエーションになると、怖くなってしまうのです。 だって自分に実力が本当にあるかどうかなんて、分からないのですから・・・。 でもとりあえず、ブレーキの正体がうすうす分かり始めてから、だんだんと勉強に集中することができるようになりました。 努力をセーブしておくと、受験に失敗した時に「精一杯がんばれば合格できたはず」と言い訳ができるのです、自分に対して。 でも、その言い訳の余地を残しておくのはやめようと決めました。 仕事のある日はもう少し少なかったですが、1日8~10時間くらい勉強していたと記憶しています。 まだ息子は待機児童だったため、一時保育に預けて勉強しました。 1日10時間預けて5,400円、週5日預けると27,000円。 お金がひらひらと羽をつけて飛んでいきます。 これで受験に受からなかったら、この投資が水の泡になってしまう・・・。 でも、なぜか状況的に追い詰められるほど、そのプレッシャーがゾクゾクするようなチャレンジ精神にすり替わっていきました。 机に向かっての勉強以外にも、家事をしながらラジオやDVD教材で勉強、車に乗っている時や歩いている時は音声教材で勉強、電車や買い物のレジでの待ち時間では参考書で勉強、とにかく生活と仕事に費やす時間は最低限に切り詰め、1分1秒を惜しんで勉強しました。 試験を1週間前に控えた頃、世の中はお盆でした。 祖母からの“お告げ”があったお盆から、ちょうど2年が経とうとしていました。 突然、母から「1週間息子を実家に連れて帰る」と連絡がありました。 私が受験勉強で息子を実家に連れて帰ることができず、ひ孫を見れない祖父がとてもさびしがっているから、とのこと。 それともちろん、娘である私に精一杯勉強させてやりたい、という愛情からでもありました。 迷いました。 つまりは、まだ2歳ちょっとの幼い息子を1週間も、自分の受験勉強のために実家に預ける、ということです。 でも、母が強くそう勧めてくれたこともあり、ありがたく甘えることにしました。 母が息子を実家に連れて帰った翌日、勉強の合間に外に出たときのこと。 暑い炎天下、自転車で走っていると、あたりの空気とは全く違った種類の、なんとも例えがたい風が吹いてきました。 その瞬間、言葉が胸にドーンと響いてきました。 「やりなさい」 それは、確かに祖母でした。 1週間、祖母が私に時間を与えてくれたのだと思いました。 そして同時に気づきました。 私がそれまで引け目を感じていたのは、高校や大学時代に結果を出せなかったからじゃない。 横道にそれたことに対してでもない。 その時々で直面した課題に対していつも少し逃げ腰で、全力投球で思いっきりぶち当たっていくという経験をしてこなかった事に対してだったんだ。 今の私には、何かが不足しているわけでもない。 結婚をして家庭を持っているし、仕事だって必要とされている場でさせていただいているし、十分満たされている。 それなのに、こんなチャンスまで与えてもらえるなんて・・・。 祖母の実在と愛情を感じ、涙が止まらなくなりました。 よし、思いっきりやろう。 そう思えてから、息子を預けていることに対する罪悪感がなくなりました。 その翌日、鍼灸治療を受けに行きました。 鍼灸を受けると時々びっくりするようなことが起きるのですが、その時も起こりました。 先生には受験のことは全くお伝えしていなかったのですが、何かその時は新しい技をしてくださったとかで、それまで頭部にこもっていた熱もすっきりととれ、身体だけでなく頭がとてもクリアになりました。 それと同時に自分がシールドで守られたようになり、周囲からのノイズ的な情報から遮断され、とても静かな心の状態で勉強に没頭していきました。 まったく疲れず、勉強すればするほど頭が冴えてどんどん記憶できます。 過去問を解いていると、その問題の出題者の意図がスーッと筋を通して見えてくるような気がしました。 また、広い出題範囲の中から、どの分野をどれだけ、どのようにして勉強すればいいのかについて明確なインスピレーションがわき、迷いなく勉強に集中しました。 その数日間は、具体的にどんな風にして過ごしたのかよく覚えていません。 とにかく勉強して夜中になって限界が来たら布団に倒れこみ、また朝起きたら勉強しました。 試験前日。 勉強も一通り終わり、午後からなぜか何も頭に入らず思考も働かなくボーっとなりました。 ふと、なんとなく気になって、数年ぶりにある封筒を手にしていました。 その封筒には、生前の祖母からもらった数々の手紙が入っていました。 ひとつひとつゆっくりと、読み返しました。 そこには、祖母からの愛情がつまった言葉がたくさん書かれていました。 また、涙が溢れて止まらなくなりました。 私はどうであれ家族から愛されているのだと心から安心し、満たされた思いに浸りながら眠りにつきました。 受験当日。 高速に乗り試験会場に向かっていると、ふと道路脇に沢山咲いている山ユリが目に飛び込んできました。 そういえば、ユリはおばあちゃんが大好きな花だったな・・・と、なんとなく思っていると、気づきました。 「さっちゃん、がんばれ、がんばれー!!」と、祖母が手を大きく振って、私に声援を送ってくれていました。 受験では、心地よい緊張感とともに、受験勉強の成果を存分に発揮することができました。 一番印象的だったのは、筆記試験も口頭試問も終わり、帰宅の途についたときの身体の感覚。 とても軽く、爽快感に溢れていました。 帰り道、また山ユリが沢山咲いている場所を通りかかったとき、「さっちゃん、よくがんばったね!」と、祖母は盛大な拍手を送ってくれました。 3週間後に合格が分かって初めて、身体の力が緩みました。 どのくらい緩んだかというと、その後2~3日間、起き上がるのも困難なほどでした。 こうやって書いていると、院試ひとつで大げさだなって、思います。 でも、私にとっては、体当たりで全力投球してそれに対して結果が伴ったという経験は、高校時代から抱えてきた劣等感を大きく変化させるものでした。 そして実は、私にとっての本当の正念場は、ここから訪れたのでした。 長年心に押し留めてきた情動が、合格発表の後から勢い良く吹き出だしました。 心身ともにとても・・・しんどい時期でした。 一時は、このままでは来年大学院にはいけないかもしれないと思うほどに情緒不安定となり、衰弱しました。 しかし、いつかは向きあわなければならないことでしたし、向き合うだけの素地が自分に出来たこの時期にだからこそ、出てきたのでしょう。 今まで噴出していた私の激しい情動や精神症状(これについてはまた機会があれば書きます)のその奥のマグマのような部分を、まざまざと見せ付けられた時には、そのあまりの巧妙さに驚愕しました。 その時期をなんとか乗り越え、今この記事を書いているのにはもうひとつの意図があります。 それは、私は自分のとる行動を主体的に選択して行なっていくのだという決心をしていきたいということです。 今まで私は、自分が勉強する理由を、“祖母のお告げ”があったからだとしていました。 その理由は時に、子育てに十分な時間を割くことのできないことに対しての、言い訳として使われました。 しかし、今ここではっきりさせておきたいと思います。 私は勉強が好きだから、自分で選択して今のこの道を選んでいるのだ、と。 主体的にその道を選ぶからには、それによってなんらかの不都合が生じた場合も、甘んじてそれを引き受けなければなりません。 また、自分で自分を酷く疲れさせたり、精神症状を出したりすることは、時にそれを理由にして自分の不全感を紛らわすことに使われてきました。 しかし、これからはそんな風に言い訳をしていては、とてもじゃないけどやっていけないと思います。 大学院生活だけでも超忙しいのに、それに子育て、家事、仕事もあるのですから。 それに、自分の巧妙な防衛手段が明るみに出てしまった以上、それらは意図的に使う手段としてはあまりに幼稚すぎます。 今ここで、私は大人にならなければなりません。 ・・・こんな長い文になるとは思いませんでした。 年の締めくくりに、こんな風に文章化することができて、感謝しています。 そして、心から、 「おばあちゃん、ありがとう」。
by ramram-yoga
| 2013-12-29 19:41
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